「ブレードランナー スケッチブック」その2 ちょっとその辺でメシ食ってくる
「ブレードランナー スケッチブック」に見る、40年前に考えられた40年後のリアルな現実
皆さんは、ブレードランナー2049観ただろうか?
本国では事前の熱狂的なレビューと裏腹に興行成績は予想を下回るスタートだったようだが、soshakuが観た限りでは、雰囲気良し、ストーリー良し、キャラクター良しの悪いところは見当たらなかった。恐らく事前予想が大きすぎたのだとみている。
個人的にはスピナーの出番が多かったのが良かった。
映画の内容についてはまたの機会に書くとして、今回は名著「ブレードランナー スケッチブック」を再び取り上げてみる。
この本は前回も紹介した通り、ブレードランナーの初期デザインを集めた設定画集であるが、特に街中で使われる看板デザインが秀逸だ(前回ブログ参照→http://soshaku.hatenablog.com/entry/2017/10/01/031210)。
まずはこの本の序文を紹介
ブレードランナーは、2019年の巨大なメガポリスを舞台にした探偵物語である。世界を構築するために映画制作者は、今から40年後の都市生活を明確かつ現実的なビジョンに基づいて開発しなければならなかった。リドリー・スコット監督は、それまでのSF映画に見られるような無機質な冷たい未来にしないことを決めた。『ブレードランナーの街は今日のメジャーな大都市と同じく豊かで、カラフルで、騒々しく、質感豊かな人生に満ちている。』ここは非現実的なものではなく今にも実現しようとしているリアルな未来である。
将来のこのビジョンを実現するために、製作者は、高層ビルや車から駐車メーターまで、国際的に有名なインダストリアルデザイナーであるSyd Meadに依頼した。
ミードは言う。『ブレードランナーはハードウェア映画ではありません。俳優たちは、セット、小道具、そしてエフェクトにスケールを与えるためだけにそこにいるガジェットの1つではないのです。私たちは、物語を現実として信じることができるような環境を作り出しました。ツールと機械は、必要なときにのみ現れ、プロットにしっかりとフィットします。』
映画全体の外観は、未来の建築、交通、ファッション、社会的行動まで慎重に検討された。
しかし、映画制作者は、すべての未来的な飾り付けは、探偵物語の背景でしかないと強調する。彼らはスコットが言う『フィリップ・マーロウやサム・スペードのような環境』に存在している。
この映画のセットは、まるで40年後に世界に存在する、40年前に作られたものであるかのようだ。この本の中にある多くのオブジェクトはフィルムの最終版のために変更または削除されたものだが、そのアートワークはプロダクションデザインの原型を語る代表例たちである。(ブレードランナー スケッチブックより)
つまり約40年前に作られたこのSF映画の金字塔は、更にそこから遡ること40年前のデザインをモチーフに、40年後すなわち今日の現代を舞台にしているということだ。1940年→1980年→2019年→2049年が密接に結びついていると考えると面白い。
この映画は当時街中の描写や不思議な日本語のやりとりが当時衝撃的であった。
「ちょっとその辺でメシ食ってくる」と言ってふらっと街に出ていくような不思議なリアリティはこうした制作者の努力によって実現したのだ。以降この映画は後々のSF映像の参考書となり、ブレードランナー以前と以降を分けるマスターピースとなった。ちなみに今回の2049ではこの街中の描写が乏しかったように思う。
フォークト=カンプフ検査(Voight-Kampff Testing)
また、この本ではフォークト=カンプフ検査に使う機械についても取り上げられている。
映画の早い段階で見られる、レプリカントを正確に見分けるためのユニークな嘘発見器は、非常に繊細であると同時に残酷なレプリカント検出器である。
これは、いくつかのデバイスを介して脅迫的な外観を実現している。被験者が座ったときに、機械がオンになる。カバーが開き、三角形のレンズピースが、コブラのように首をもたげ、被験者の眼に焦点を合わせる。
リドリー・スコットは、ユニットが呼吸しているように見せたいと思っていた。そこでマシンは虹彩の筋肉収縮がゼロであることを測定すると同時に空気サンプルを取り込み、そのサンプルを分析している間、神経や恐怖、ストレスの下で身体から放出された目に見えない空中浮遊粒子を検出するという設定にした。これは、マシンに"生命のような"機能を与え、その脅威的な性質を強調している。V-Kテストは、ブレードランナーの緻密な質問を通してレプリカントの感情反応を測定することによって、容疑者が本当に人間であるかどうかを総合的に判断する。(ブレードランナー スケッチブックより)
いや、ホント素晴らしい。
他にもフィルムに採用されなかった細かい設定やデザインがこの本には収録されている。
上はデッカードのアパートの鍵
やはり神は細部に宿るなあ。
次回はもう少しこの辺の話題を掘り下げてみたい。
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