企画アイデアとストーリー作りに関する考察ブログ

創るとは、残すことに他ならない。日々接し、感じることが全て創造に繋がる。ここは、そんな自分が経験した出来事が作品に昇華されるまでの素材と過程を記していくブログです。

リドリースコットの原点に触れる「デュエリスト/決闘者」ストーリーと画作りの哲学

リドリースコットの原点に触れる「デュエリスト/決闘者」ストーリーと画作りの哲学

f:id:soshaku:20170929090645j:image

 

エイリアン:コヴェナント」公開を期にリドリーの長編デビュー作「デュエリスト/決闘者」をDVD鑑賞。この後「ブレードランナー2049」も公開されるし、ここは再見しておかねば。

f:id:soshaku:20170929090507j:image

公開当時Soshakuは中学生で、1人で新宿のシネマスクウェア東急で観たのだが、風景が本当に美しかったという記憶がある。その時以来なのでン十年ぶりだ(遠い目)。

 

リドリー・スコットの原点であり宝石箱のような映画


この映画はデュベールとフェローという2人の男の間で長きにわたって繰り広げられる決闘の人生を描いた作品だ。

原作はジョゼフ・コンラッド
言わずと知れた19世紀の劇作家で「闇の奥」は地獄の黙示録の原作だ。
デュエリスト」はナポレオン帝政時代のフランスが舞台なのだが、この人1857年生まれで、実はナポレオンがそんな昔ではないぐらいの時代の人なのである。人々の中にナポレオンのリアルな記憶がある時代ってとても興味深い。

 

リドリー・スコットは当初CM監督だったのだが、どうしても映画をやりたくて、お金がないものだから著作権の切れた作品から映画の題材になるものを片っ端から探していたそうで、そんな中でこの作品に巡り合ったという。
で、この物語は、舞台となるその時代に、実際に数十年にわたって決闘し続けた男たちがいたという実話をベースにしているのだが、この映画のロケ地がたまたまそのモデルになった人物が過ごしていた町だったそうで、リドリーは運命的なものを感じたそうだ。

 

他にも主人公がヒロインに結婚を申し込むシーンでは、実際に2人が連れていた馬が求愛感情を示すハプニングがあり、ヒロインが主人公のセリフにはにかむように笑うのは、実は馬のイチモツにウケてしまったものだそうで、そんな奇跡的なシーンがいくつも本編に収められている。

神は細部に宿るというが、撮影中のハプニングも積極的に取り込んでいくことで単純なストーリーがどんどん魂を得ていくのだろうな。

 

そんなエピソード満載のこの映画、当初は別の俳優で考えていたものの、配給元の意向でこの2人に決まったそうで、でも結果的には良かったと思う。当初構想していた俳優が誰だったかは、ぜひDVDのメイキングでご確認いただきたい。

 

デュエリスト/決闘者」30秒ストーリー


ということでリドリー・スコットの原点を30秒で斬ろうと思ったのだが、Soshakuはこの映画をみんなに見てもらいたくて、今までのストーリーを端的に一文にするというルールから少し外れてネタバレしないように配慮してみた。


ナポレオン帝政時代の1800年激動のフランスを舞台に、決闘に執着するフェロー中尉(ハーヴェイ・カイテル)と、些細なきっかけで彼と事あるごとに決闘し続けることになるデュベール中尉(キース・キャラダイン)の、時代の流れに翻弄されつつも、その人生の長きにわたる2人の奇妙な関係と決着の物語。


なんか宣伝コピーみたいになったが、要はそういうストーリーだ。

もう少し詳しく説明すると
粗暴でプライドが高く後先を考えずに行動する男に
決闘を強要され、長きにわたって決闘し続けることから奇妙な感情が芽生えてくる。
互いを過剰に意識し合って決闘の運命に酔う時期もあったり、相手の命を助ける場面もあったりする。
しかしその後結婚し、妻が子供を宿すことで人生の大切なものを知り、最後は家族のためにストーカーと化しているフェローとの長きに渡る闘いにケリをつける、というストーリーだ。

 

物語としてはデュベール視点を中心に描いており、フェローについてはまったくの説明不足なところが不満と言えば不満で、全ての悪行の要因はちっぽけなプライドと男っぷりという、身もふたもない話なのだが、それを補って余りある映像美と当時の風俗、文化がとても興味深い。
例えば主人公が周りのセッティングによる気乗りしない結婚に対して

結婚に至る過程はどうでもいい
要は時と共に根を下ろせばいいの
コケのようにね

 

と姉に諭されるシーンや、その後徐々に平和で幸せな人生を実感していく様など、現代にも通じる普遍的な人の心や社会といったものも描かれる。

 f:id:soshaku:20170929095411j:image

リドリー・スコットは間違いなく現代の巨匠


物語の舞台となるロケ地は、よくこんな景色を見つけたものだというぐらいの美しい風景で、なおかつ自然光を基調にした照明も素晴らしい。

f:id:soshaku:20170929095440j:image

f:id:soshaku:20170929095454j:image

 

リドリー・スコットは当時公開されていたキューブリックの「バリーリンドン」に強く影響を受けたと語っている。
バリーリンドンでスタンリーキューブリックは特別なレンズをNASAから仕入れ、ろうそくの火で映画を撮った。で、リドリーもそれを狙ったのだが予算不足で撮れなかったとか。

 

キューブリックリドリー・スコット、絵画を原点とした画作りがふたりの共通でありながら、リドリーは芸術とビジネスのバランスが絶妙で、それが職人監督と揶揄されながらも、だからこそエイリアンやブレードランナーといった傑作を世に送り出すことができたのであろう。これら作品はキューブリックでは絶対できなかったはずだ。

彼は予算のバランスを見つつ、しっかり感動的なストーリーや芸術のこだわりを作品に反映でき、大スターも扱えて、アクションやSF大作から文芸物までしっかり作り上げるその器用さゆえか、ハリウッドからは便利に使われてしまっている感もあるが、現代の数少ない巨匠である事は間違いない。もっと評価されても良いのではないか。いやされるべきである。

 

そんなリドリースコットの原点が詰まったこの映画、「エイリアン:コヴェナント」の公開を期にひとりでも多くの人に是非観て欲しい作品だ。

 

今日の試験に出るストーリーテリング

「単純なストーリーに魂を宿すのは、細部へのこだわりと、運を取り込んでいく積極性が必要なのだ」

 

デュエリスト-決闘者- スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

デュエリスト-決闘者- スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

 

 

デュエリスト-決闘者- [DVD]

デュエリスト-決闘者- [DVD]

 

 

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)