「星を継ぐもの」ストーリーテリングからの考察:完全ネタバレ
「星を継ぐもの」ストーリーテリングからの考察:完全ネタバレ
前回に引き続き「星を継ぐもの」を取り上げてみる。
このブログはストーリーがいかに作られていくのか、
その意義と過程を解き明かそうとすることが目的なので、今回は星を継ぐものがどのようにして作品になっていったかをホーガンの立場で推理してみたい。
まずはアイデアの源泉だ。
ホーガンはエンジニアを経て、セールスマンとして主に研究所や大学にコンピュータ販売していた時に、科学の意味といったものについて学んだそうだ。
ウィキペディアによると、彼は「理論は実証的研究にのみ基づいてまとめられるべきであり、理論と現実に不一致があるなら、捨てられるべきなのは現実ではなく理論の方だ」という考えを根底に持っていることから、それはこの作品にも大きく影響しているのがわかる。
ホーガンは理系でありながら極めて感情的で情緒を重んじる人間であり、科学を文学的な視点に立って捉えていたのだ。
そんな背景を考えると、この作品を生み出すスタートとしてホーガンは、今ここに立つ地球人は、科学を駆使し地上の支配者を謳歌しているけれども、その起源は本当にこの地球上で自然発生的に生まれたものなのだろうか、このまま支配者として自然を破壊し尽くし、お互いに対立し合っていていいのだろうか、という疑問が発想のきっかけなのだと想像される。
この作品が発表される以前から地球先住民説というのはよくあるネタであり、遠い惑星から資源の豊富な地球を目指して宇宙人がやってくる、という設定はそれこそB級SFの定番であり、何も目新しくない。この作品を名作たらしめているのは、彼らが何の理由で、どのようにして地球にやってきたかを説得力を持って描いている点だ。
結論を言おう。「星を継ぐもの」の最も大きなポイントは、「地球人類は月に乗って他の惑星からやってきた」というものだ。
①地球人類は月からやってきた→②その月は元々他の惑星の衛星であった→③戦争によって母星が破壊され宇宙に投げ出された
このアイデアに説得力を持たせるために、あえてヒントは最小限にし、発見された遺物や事象を豊富な(マニアックな)作者の知識と科学的考証をもって、ひとつひとつ丹念に描写することによって、派手な演出やアクションに頼ることなく圧倒的なリアリティとサスペンスを生み出すことに成功したのだ。
彼らは月に行くだけの科学技術力と、対立する一方の民族を絶滅に追いやる科学兵器を持ち合わせていた。つまりこれは人類の行く末でもある。そんな彼らが自ら母星を破壊し、宇宙を流浪するうちに地球の引力に捕まり新たに地球の衛星になった。
資源も空気もない月で自滅を待つのではなく、当時まだ若く、過酷な環境であった太古の地球で生きることを決意する。そして彼らはそこでたくましく生き抜き、今の人類の礎を築いた。つまり我々地球人類こそが星を継ぐ者である、という結論。
なぜ戦争が起こったのか、なぜ地球の衛星になった後も戦争を続けていたのか、ガニメアンとルナリアンの関係はどうなっているのか、ミネルヴァを破壊する前にもっと対策を打てなかったのか、などなど。それらの疑問に答えるために作者は3部作にわたってこの世界を展開したのだろう。
その創作の過程はきっと苦しくも楽しい旅路だったのだろうな。羨ましい。まずは僕自身がこれらを早く完読しないと。
今日の試験に出るストーリーテリング:
ひとつのアイデアを膨らませて世界を構築しよう。後は登場人物と、それぞれのアイテムがストーリーを語ってくれる。
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