企画アイデアとストーリー作りに関する考察ブログ

創るとは、残すことに他ならない。日々接し、感じることが全て創造に繋がる。ここは、そんな自分が経験した出来事が作品に昇華されるまでの素材と過程を記していくブログです。

30秒でわかる:「シェイプ・オブ・ウォーター」俺たちのギレルモが大快挙!

f:id:soshaku:20180310021742j:image

祝!

シェイプ・オブ・ウォーターがアカデミー作品賞、監督賞はじめ4部門を獲得する快挙!

 

この映画は間違いなくヘンタイによるヘンタイのためのヘンタイ映画だ(いい意味で)!

「ヘンタイ」を「オタク」に変えてもよい。

時代を間違えたらデビッド・リンチの「エレファントマン」と同じ運命だっただろう(ちなみにsoshakuはエレファントマンもデビッドリンチも大好きだ)。

f:id:soshaku:20180310111118j:image

そんな愛すべきシェイプ・オブ・ウォーターのストーリーを一文で!

 

以下、ネタバレ注意!

 

1962年冷戦下のアメリカを舞台に、軍の極秘研究所に連れてこられ、残酷な実験材料にされていた半魚人を愛したヒロインが、周囲の協力を得て彼を研究所から逃し、そして共に海へ帰っていく話。

 

重要なのは、海へ「かえす」のではなく、海へ「帰る」のだ。

f:id:soshaku:20180310022006j:image

この作品がアカデミー賞主要含む4部門を受賞したのは、この作品が大人のための恋愛ファンタジーであるとか、徹底した映像美であるとか、あの時代の、懐かしくも平和でありながら、弱者の生きにくい時代背景を生々しく描いたさまであるとか、様々な理由があると思うが、間違いなく言えるのは、一昔前までヘンタイ扱いされていたヘンタイ映画(これをオタク向け映画という)が市民権を得たということだ(異論反論受付中)。

 

なにせ、映画が始まって1分足らずで主人公のヒロインが全裸でマスターベーションに耽るわ、自分から服を脱いで半魚人を迫っていくわ、その半魚人とは突然ミュージカルになって踊るわ、研究所の悪玉所長がここまでかと思うほどの胸糞言動を繰り返すわで、ホント10年前なら確実にカルト映画扱いだろう。

ただ、観ていくうちに本当の変態は(ヘンタイでなく)その時代に息づいていた、差別に満ちた人々の偏見であり、国と国とのくだらない争いであり、そしてその怖さは、現代と紙一重であることに気づいていく。

また、半魚人を愛したヒロインに戸惑いつつも、彼女を理解し、協力するまわりのキャラクター達も魅力的だ。

彼らはゲイであったり有色人種であったりすることで差別や偏見に晒されており、半魚人を通して自分自身の境遇を嫌でも重ねることになり、彼らによる体制への反撃映画でもあるのだ。

まあ、アカデミー作品賞を取ったのも充分頷けるわけだが、実はギレルモ・デルトロが本当に描きたかったのはあの時代を背景にした、耽美に満ちた極彩色の怪奇とエロスの空想映画であることは想像に難くない(かつて彼は「ヘルボーイ」を撮っていたのだ)。

f:id:soshaku:20180310021345j:image

後ろに「彼」いるじゃん!と思ったらまさかの同じ役者さんだった!

f:id:soshaku:20180310021540j:image

ダグ・ジョーンズという役者さんだが、デルトロの作品には欠かせない存在

 

僕は彼のアカデミー賞受賞によってカルトやSFが世間に認められたことが嬉しいのだが、アカデミー賞受賞作ということで劇場に足を運んだ観客が、気持ち悪いと拒否反応を見せることもあるだろう。

だがそれは正しい反応だ。そもそも彼はカルト作家であり、一般の観客には少々刺激が強すぎるのだ。ただしオタクならではの様々なギミックやこだわりが随所に隠されているので、それらを探してみることで更に面白さが倍加することと思う。

soshakuとしてはアカデミー賞を取るより、一部のコアなファンのみが知る俺たちのギレルモであって欲しいという気持ちが少なからずあるのだが。

 

皆さんはどう感じただろうか。

 

本日の試験に出るストーリー作りの極意。

最強のストーリーテラーとは、人の気持ちを知ることのできるオタクである

 

ヘルボーイ [Blu-ray]

ヘルボーイ [Blu-ray]

 
ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話

ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話

 
シェイプ・オブ・ウォーター (竹書房文庫)

シェイプ・オブ・ウォーター (竹書房文庫)

 
ギレルモ・デル・トロ 創作ノート 驚異の部屋

ギレルモ・デル・トロ 創作ノート 驚異の部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲームマーケット2017」でストーリーテリングツールの可能性を見た!

アナログゲームによるストーリーテリング手法の可能性について その1

 

明けましておめでとうございます。

新年最初の更新は、少し前の話になるが、12/上旬に行なわれたイベントのトピックだ。

東京コミコンに皆さんは行っただろうか。
soshakuももちろん行ったのだが、同時にビッグサイトで開催されていた「ゲームマーケット2017」が注目に値するイベントだったのでこちらの紹介を今回はしたい。

f:id:soshaku:20180106234549j:image

ブレイク前夜?!アナログゲームの祭典「ゲームマーケット

仕事を通じて主催の方とお話をする機会があり、初参加となったのだが、ゲームマーケットとは簡単に言うとアナログゲームの祭典だ。
Wikipediaでは下記のように紹介されている

 

ゲームマーケットは、『電源不要ゲーム』のみを対象とした有料のゲームイベントである。東京では年2回春と秋に開催される。
(中略)同人系・商業系問わず多数のブースが出展されている。
参加者の年齢層は幅広く、一般参加者には親子連れも多く、低年齢層でも楽しめる専用のブースやフリースペースが設けられている。

 

アナログゲームといってもその幅は広く、トレーディングカードゲームTCG)からボードゲームテーブルトークRPGTRPG)、ゲームブックや、パズルゲームなど、とにかくありとあらゆる「電源不使用ゲーム」が勢ぞろいしている。

 

アークライトの方の話によると、ここ1年半ぐらいからこのジャンルが急激に流行してきており、同社が主催する件の「ゲームマーケット」も入場者が毎年増加しているし、なにより数万円するフィギュア入りボードゲームが予約段階で即完売する状態が続いているとのこと。

 

ゲームマーケットでも2万5千円する「クトゥルフ ウォーズ」が目の前でバンバン売れていってすぐに完売してしまった!

これが話題の「クトゥルフ・ウォーズ」

こちらの説明記事がわかりやすい

http://www.4gamer.net/games/138/G013826/20170808082/

 

私はアークライトのブースで販売していた「タイムボム」というカードゲームを購入した。
これは特殊部隊と、テロリストに分かれてお互いの身分を隠しながら片や爆弾を爆発させ、片や爆発させずに終了させることが目的の人狼型のゲームだ。
同様に1ゲーム一晩だけでという、手軽に人狼が楽しめる「ワンナイト人狼」の再販版を購入。ワンナイト人狼はシンプルながら家族4人で大盛り上がりした。

 f:id:soshaku:20180106234654j:image

アナログゲームは、戦略系ボードゲームというジャンルもあって今回私も初めて購入したのが、その名も「ウォーハンマー40000」。
まだ未プレイなのだが、ミニチュアをコレクションし、ペイントし、アーミーを編成して、2人以上のプレイヤーが自らの戦略と幸運を試すボードゲームで、歩兵軍団、強力な英雄、戦車部隊、怪物やエイリアンや巨大な戦闘機械など、自分の軍隊を自分の望みのままに作ることができる。

さらにWEBの説明によると、広範な設定や、豊かで無限のオプションを取り入れた戦闘やキャンペーンゲームで、自分で作り上げた戦場で展開されるそれぞれのミッションでは、同じゲームは2つとなく、オリジナルの物語を紡ぎだすことができるらしい。
何とも楽しそうではないか!

f:id:soshaku:20180106234954j:image

初心者向けに5千円程度から楽しめるスターターキットが発売されている

 

 soshakuは体験ペイントが楽しくてつい初心者向けスターターキットを購入してしまったのだが、二人の子持ち妻帯者が友人と一緒に遊ぶ機会もなく未だ未開封である。

 

ストーリーツールとしてのアナログゲーム

話が横に逸れたが、
soshakuが特にアナログゲームに興味を持ったのは、アナログゲームというツールを通じてストーリーを紡いだり、体験することができる、更にそれらがアイデア勝負であり、低コストで制作できるところだ。

 

特にテーブルトークRPGTRPG)はその代表であろう。
TRPGは、複数のプレイヤーとゲームマスターがセットとなり、予め決められたシナリオまたは物語・舞台・遭遇などをまとめた資料をもとに、想像力を働かせながらロールプレイングゲームを行なうもの。
ゲームマスターはいわゆる世界のルールを司っており、審判であり、司会であり、神様でもある。
シナリオは市販されているものを使うこともできるが、ゲームマスターによる自作も可能で、同じゲームでもゲームマスターの方針やはからいによって内容も変化する。

f:id:soshaku:20180106234814j:image

近年TRPG人気のきっかけを作った「クトゥルフの呼び声


ここで興味深いのは、TRPGの体験はストーリーの体現であり、この体験をまとめたものが小説になったり、動画化されている、「リプレイ」と呼ばれるものがひとつのジャンルになっているということだ。

こうした、ストーリーを創作するという観点からこのアナログゲームというものに俄然興味を持ったのだが、前述の通り2人の子持ち会社員からすると、なかなか人数を集めて遊ぶという機会を作るのも難しく、ハードルが高い。

 f:id:soshaku:20180106234906j:image

YouTubeには面白い「リプレイ」動画が数多くアップされている

 

最近はTRPGが遊べるカフェや、バーといった場所もあるらしいので挑戦してみるのもいいかもしれない。でもやっぱり1人で行くのは勇気がないかな。。
とりあえずボードゲーム作成キットというものを購入したので、これで少しアナログゲーム作りの研究をしてみようか。

 

次回はゲームとストーリーの研究についてより深く触れてみたい。

 

 

 

 

 

 

 

タイムボム

タイムボム

 

 

 

ワンナイト人狼

ワンナイト人狼

 

 




 

 

スターウォーズ最後のジェダイ 観る前に知っておいて欲しいこと

ここのところエイリアンといい、ブレードランナーといい、新作が多すぎて付いていくのに必死なsoshakuです。
f:id:soshaku:20171220235315j:image
しかも合間に東京コミコンやゲームマーケットがあって、そして更に極めつけがスターウォーズだ。
このブログも更新する前に次から次にイベントが続いたせいで、書きかけのドラフトが累々と積み上がってしまっている(と、筆不精の言い訳をしてみる(^^;)
f:id:soshaku:20171220234515j:image

 

エピソード8が不安だった
実はsoshakuは、今回の新三部作が旧三部作ファンにとって悲しい決別になると思っていた。観客の嗜好の変化や時代の流れに合わせて新たなイマジネーションを膨らませた結果の先は「アヴェンジャーズ」になるのだろうなと。


ディズニーがルーカスを買って以来、あからさまな商業主義と、それにまんまと喜んで乗せられている自分がいささか情けなかった。
いや、エピソード7が悪かったというわけではない。ただ、リスペクトが強すぎるあまり懐古主義的ポエムになり、新たな時代を築くためのインパクトとサプライズに走り、それらが水と油のように混ざることがなかったのだ。「ファンならこうしたら嬉しいだろう?ほれほれ」という目の前のニンジンを喜んでパクつく自分が見えた時にちょっと冷静になってしまったのだ。
f:id:soshaku:20171220234226j:image


スターウォーズの敵になるのか、改めて忠誠を誓うのか
批判を恐れずはっきり言うと、エピソード7は良くも悪くも同窓会だ。
そりゃそうだ。前作から10年が経過して満を持しての新エピソード。しかも旧三部作の純粋な続編だ。世界中のファンがこの作品でスターウォーズの敵になるのか、改めて忠誠を誓うのか、この作品で決まるのだ。
ディズニーはこの1作のために莫大な費用と覚悟を込めていただけに、送り手として、旧三部作のキャストの再開と、それを彩るストーリーを旧作のプロットをなぞらえるしかなかったというのも理解できる。

ということで、エピソード8は正直言って観るのが怖かった。前作が謎や伏線を張りすぎたせいで消化不良が激しく、まるで風呂敷を広げようとして、畳んである風呂敷を開ききる前に終わってしまったようだった。続編を夢想して喜々として語る気になれなかった自分が悲しかった。


更に今度は三部作の2作目だ。三部作の真ん中というのは、作り手からするとプロローグとエピローグに挟まれてストーリー的な「縛り」と「自由度」の両方が与えられる。

大した展開もなく、ただとっ散らかった、凡庸で退屈作品になるか、はたまたキャラクターが生命を吹き込まれスクリーンを縦横無尽に駆け回る楽しい傑作になるのかどちらかだ。
帝国の逆襲が名作と言われるのはそれが奏功したのだ。

ただし名作といってもストーリーに深みを与えることは難しい。結末への辻褄をあわせようとするあまりどうしても説明口調になるし、どのみち3作目があるのだからと、キャラクターの魅力と派手なアクションに偏りがちだ。


従って今回のエピソード8も更に謎が謎を呼んで、ようやく風呂敷を広げることができたところで終わるのではないかなと正直思っていた。

 

 非常に完成度の高い傑作

soshakuは昨日2回目を観たのだけど結論を言うと、エピソード8はこの作品単体として非常に完成度の高い傑作だ。

更に言うとストーリーもいたずらに横に広げず、じっくり深く掘り下げたため、単なる2作目以上の意味を持った。

事前の心配などまったく必要なかった。

soshakuとしてはこの作品、語りたいことが山ほどあって収拾つかない状態なのだが、ひとつだけ言いたいのは、未見の人は出来る限り(できれば一切の)情報をシャットアウトして観て欲しい、ということだ。
そうすれば最高の体験があなたを待っている。
よって今回soshakuはこの作品についてあれこれ述べない!

でも‥この感動をどうしても口にしたくて書いてしまった。なので今日はここで終わる。
そしてこの作品を観た全ての観客が幸福に包まれることを祈る。

以上!
May the force be with you, always...!


f:id:soshaku:20171220234756j:image

「ブレードランナー スケッチブック」その3 「2049」で変わったもの。変わらないもの。

ブレードランナーシド・ミード

シド・ミードは今回「ブレードランナー2049」のプロジェクトにも参加していて、今回出版された「THE MOVIE ART OF SYD MEAD VISUAL FUTURIST」によるとデッカードが身を隠しているホテルのデザインをふたつ手がけている。 

f:id:soshaku:20171126234119j:image

f:id:soshaku:20171123112556j:image


監督はモダンな“シド·ミード的"ホテルの隣にある“クラシックなカジノ”が見たいといい、ホテルは高級なものを望んだそうだ。

ミード曰く

「いったい“クラシックなカジノっていうのはなんだね?たとえば、モナコにあるカジノ·ド·モンテカルロみたいなものか?」

これらのスケッチは、監督とヴィジュアルとスタイルの方向性を探るために描いたものだとのことだが、映画の世界観や雰囲気のみならず、デッカードのこれまでの生活ぶりや心の葛藤を端的に表している。

 f:id:soshaku:20171123113007j:imagef:id:soshaku:20171126234229j:image

これらは “モダンでなめらかな外観と伝統的なスタイル”を組み合わせてあるが、ブレードランナーの廃墟と化した、2019年の風景はまるで現在の私たちが1940年代に対して見る風景でもある。

前回ブログ参照(http://soshaku.hatenablog.com/entry/2017/11/08/141601

  f:id:soshaku:20171126235054j:image

 

現代のビジョナリスト

デュエリスト」の回でも述べたが、リドリースコットは絵から世界観やストーリーを探っていく(http://soshaku.hatenablog.com/entry/2017/09/29/095934)。

それをまるで見てきたかのようにビジュアルに描き起こすシド・ミードはやはり現代のビジョナリストなのだろう。

先日Googleの人に話を聞く機会があったのだが、成功した広告事例のうち、ビジュアルが果たした効果は70%だと言う。つまり広告を見る大部分の人々は、ビジュアルからメッセージを受け取っているのだ。

 

本書の冒頭に寄せてドゥニ・ヴィルヌーブは言う。

「現在のわたしたちは、20世紀から見た未来にいる。そして、歴史がおなじあやまちをくりかえすことは止められないと思い知らされている。いまの時代に、悪夢にまみれていない未来を夢見る人間がいるだろうか?

人類のほとんどが自分たちの未来を怖れているいま、わたしたちがかつてないほど必要としているのは、よりよき明日のヴィジョンを具体化できる、知識の豊かな夢想家たちなのだ。」

 

リドリー・スコットシド・ミードもそれら夢想家のひとりであり、また預言者であることは間違いない。

以前ブログで紹介した「星を継ぐもの」にも通じるところがある。→http://soshaku.hatenablog.com/entry/2017/09/05/102049

 

今回紹介した、「THE MOVIE ART OF SYD MEAD VISUAL FUTURIST」はシド・ミードの過去の仕事をこれでもかというくらい大量に紹介している。今見てもこれからくるであろう未来における人類の輝かしい発展に心躍らせられる。

 

あと「2049」未見の方は、本書と一緒にまずは劇場の大画面でみることを強くお勧めする。未来と人間について考えさせられるよ!

 

今日の試験に出るストーリーテリング

ストーリーはビジュアルから発想される。その割合は70%!

 

 

シド・ミード ムービーアート THE MOVIE ART OF SYD MEAD

シド・ミード ムービーアート THE MOVIE ART OF SYD MEAD

 

 

BLADE RUNNER 2049 (SOUNDTRACK) [2CD]

BLADE RUNNER 2049 (SOUNDTRACK) [2CD]

 
The Art and Soul of Blade Runner 2049

The Art and Soul of Blade Runner 2049

 

 

 

 

 

 

「ブレードランナー スケッチブック」その2 ちょっとその辺でメシ食ってくる

ブレードランナー スケッチブック」に見る、40年前に考えられた40年後のリアルな現実

f:id:soshaku:20171108140021j:image
皆さんは、ブレードランナー2049観ただろうか?
本国では事前の熱狂的なレビューと裏腹に興行成績は予想を下回るスタートだったようだが、soshakuが観た限りでは、雰囲気良し、ストーリー良し、キャラクター良しの悪いところは見当たらなかった。恐らく事前予想が大きすぎたのだとみている。
個人的にはスピナーの出番が多かったのが良かった。
映画の内容についてはまたの機会に書くとして、今回は名著「ブレードランナー スケッチブック」を再び取り上げてみる。
この本は前回も紹介した通り、ブレードランナーの初期デザインを集めた設定画集であるが、特に街中で使われる看板デザインが秀逸だ(前回ブログ参照→http://soshaku.hatenablog.com/entry/2017/10/01/031210)。

 

まずはこの本の序文を紹介

ブレードランナーは、2019年の巨大なメガポリスを舞台にした探偵物語である。世界を構築するために映画制作者は、今から40年後の都市生活を明確かつ現実的なビジョンに基づいて開発しなければならなかった。リドリー・スコット監督は、それまでのSF映画に見られるような無機質な冷たい未来にしないことを決めた。『ブレードランナーの街は今日のメジャーな大都市と同じく豊かで、カラフルで、騒々しく、質感豊かな人生に満ちている。』ここは非現実的なものではなく今にも実現しようとしているリアルな未来である。
将来のこのビジョンを実現するために、製作者は、高層ビルや車から駐車メーターまで、国際的に有名なインダストリアルデザイナーであるSyd Meadに依頼した。
ミードは言う。『ブレードランナーはハードウェア映画ではありません。俳優たちは、セット、小道具、そしてエフェクトにスケールを与えるためだけにそこにいるガジェットの1つではないのです。私たちは、物語を現実として信じることができるような環境を作り出しました。ツールと機械は、必要なときにのみ現れ、プロットにしっかりとフィットします。』
映画全体の外観は、未来の建築、交通、ファッション、社会的行動まで慎重に検討された。
しかし、映画制作者は、すべての未来的な飾り付けは、探偵物語の背景でしかないと強調する。彼らはスコットが言う『フィリップ・マーロウやサム・スペードのような環境』に存在している。
この映画のセットは、まるで40年後に世界に存在する、40年前に作られたものであるかのようだ。この本の中にある多くのオブジェクトはフィルムの最終版のために変更または削除されたものだが、そのアートワークはプロダクションデザインの原型を語る代表例たちである。(ブレードランナー スケッチブックより)

 

f:id:soshaku:20171108140238j:imagef:id:soshaku:20171108140256j:image
つまり約40年前に作られたこのSF映画の金字塔は、更にそこから遡ること40年前のデザインをモチーフに、40年後すなわち今日の現代を舞台にしているということだ。1940年→1980年→2019年→2049年が密接に結びついていると考えると面白い。

この映画は当時街中の描写や不思議な日本語のやりとりが当時衝撃的であった。

「ちょっとその辺でメシ食ってくる」と言ってふらっと街に出ていくような不思議なリアリティはこうした制作者の努力によって実現したのだ。以降この映画は後々のSF映像の参考書となり、ブレードランナー以前と以降を分けるマスターピースとなった。ちなみに今回の2049ではこの街中の描写が乏しかったように思う。

 f:id:soshaku:20171108140351j:image

 

フォークト=カンプフ検査(Voight-Kampff Testing)

また、この本ではフォークト=カンプフ検査に使う機械についても取り上げられている。

 f:id:soshaku:20171108140053j:image

f:id:soshaku:20171108140132j:imagef:id:soshaku:20171108140143j:image

映画の早い段階で見られる、レプリカントを正確に見分けるためのユニークな嘘発見器は、非常に繊細であると同時に残酷なレプリカント検出器である。
これは、いくつかのデバイスを介して脅迫的な外観を実現している。被験者が座ったときに、機械がオンになる。カバーが開き、三角形のレンズピースが、コブラのように首をもたげ、被験者の眼に焦点を合わせる。
リドリー・スコットは、ユニットが呼吸しているように見せたいと思っていた。そこでマシンは虹彩の筋肉収縮がゼロであることを測定すると同時に空気サンプルを取り込み、そのサンプルを分析している間、神経や恐怖、ストレスの下で身体から放出された目に見えない空中浮遊粒子を検出するという設定にした。これは、マシンに"生命のような"機能を与え、その脅威的な性質を強調している。V-Kテストは、ブレードランナーの緻密な質問を通してレプリカントの感情反応を測定することによって、容疑者が本当に人間であるかどうかを総合的に判断する。(ブレードランナー スケッチブックより)

いや、ホント素晴らしい。

他にもフィルムに採用されなかった細かい設定やデザインがこの本には収録されている。

f:id:soshaku:20171108140457j:image

 上はデッカードのアパートの鍵

 

やはり神は細部に宿るなあ。

次回はもう少しこの辺の話題を掘り下げてみたい。

 

 

Blade Runner Sketchbook

Blade Runner Sketchbook

 

 

 

 

 

 

 

「ブレードランナー スケッチブック」に見るリドリー・スコットの壮絶なる執念!

今回も前回に引き続きリドリースコットを取り上げる。ストーリーに説得力を持たせるための「細部へのこだわり」だ。
ブレードランナー スケッチブック」というブレードランナーの設定画集を持っているのだが、改めて眺めてみるとリドリースコットのこだわりが見えてくる。

f:id:soshaku:20171001030812j:image

世界観を作り上げるのに必要なデザインは乗り物、建物、小道具だが、ここでも予算、芸術、マーケティングの秘訣が詰め込まれている。

f:id:soshaku:20171001024610j:image

f:id:soshaku:20171001024625j:image

セットや、小道具のひとつひとつが、使い込まれた現実感と未来感の両面を持っている。

 

f:id:soshaku:20171001023806j:imagef:id:soshaku:20171001023822j:image

リドリーは元々グラフィックアーティストでもあり、ブレードランナーでは当初ディレクターでありながらデザイナーの肩書きも持っていた。

上のイラストはリドリーによる初期ストーリーボードだ。

 

これが途中からメビウスの参加により、彼がデザイン全般をこなしていくことになる。 

f:id:soshaku:20171001024142j:image

上のイラストはメビウスによるもの。

 

そしてなんといっても出色なのは、セットに使われた看板や広告の数々だ。

下の写真はどれも映画の中に使われたものだ。

f:id:soshaku:20171001025410j:image

f:id:soshaku:20171001030902j:image

f:id:soshaku:20171001025419j:imagef:id:soshaku:20171001025441j:imagef:id:soshaku:20171001025523j:imagef:id:soshaku:20171001025540j:image

日本人から見ると笑ってしまうが、欧米人から見ると異国感や近未来感を感じるのだろうか。

ちなみにブレードランナーの時代設定は2019年。もうすぐそこまで来ているのだ!

ゴールドブレンドはこの時代まで生き残っていることを当時から予見していたのだ。

 

ブレードランナー以降、SFものに出てくる未来都市がどれもブレードランナー風になり、今でも脱却できずにいるのは、それだけブレードランナーが当時どれだけ画期的であったかを証明しているし、時代を越えたマスターピースである事は疑いのない事実であろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

リドリースコットの原点に触れる「デュエリスト/決闘者」ストーリーと画作りの哲学

リドリースコットの原点に触れる「デュエリスト/決闘者」ストーリーと画作りの哲学

f:id:soshaku:20170929090645j:image

 

エイリアン:コヴェナント」公開を期にリドリーの長編デビュー作「デュエリスト/決闘者」をDVD鑑賞。この後「ブレードランナー2049」も公開されるし、ここは再見しておかねば。

f:id:soshaku:20170929090507j:image

公開当時Soshakuは中学生で、1人で新宿のシネマスクウェア東急で観たのだが、風景が本当に美しかったという記憶がある。その時以来なのでン十年ぶりだ(遠い目)。

 

リドリー・スコットの原点であり宝石箱のような映画


この映画はデュベールとフェローという2人の男の間で長きにわたって繰り広げられる決闘の人生を描いた作品だ。

原作はジョゼフ・コンラッド
言わずと知れた19世紀の劇作家で「闇の奥」は地獄の黙示録の原作だ。
デュエリスト」はナポレオン帝政時代のフランスが舞台なのだが、この人1857年生まれで、実はナポレオンがそんな昔ではないぐらいの時代の人なのである。人々の中にナポレオンのリアルな記憶がある時代ってとても興味深い。

 

リドリー・スコットは当初CM監督だったのだが、どうしても映画をやりたくて、お金がないものだから著作権の切れた作品から映画の題材になるものを片っ端から探していたそうで、そんな中でこの作品に巡り合ったという。
で、この物語は、舞台となるその時代に、実際に数十年にわたって決闘し続けた男たちがいたという実話をベースにしているのだが、この映画のロケ地がたまたまそのモデルになった人物が過ごしていた町だったそうで、リドリーは運命的なものを感じたそうだ。

 

他にも主人公がヒロインに結婚を申し込むシーンでは、実際に2人が連れていた馬が求愛感情を示すハプニングがあり、ヒロインが主人公のセリフにはにかむように笑うのは、実は馬のイチモツにウケてしまったものだそうで、そんな奇跡的なシーンがいくつも本編に収められている。

神は細部に宿るというが、撮影中のハプニングも積極的に取り込んでいくことで単純なストーリーがどんどん魂を得ていくのだろうな。

 

そんなエピソード満載のこの映画、当初は別の俳優で考えていたものの、配給元の意向でこの2人に決まったそうで、でも結果的には良かったと思う。当初構想していた俳優が誰だったかは、ぜひDVDのメイキングでご確認いただきたい。

 

デュエリスト/決闘者」30秒ストーリー


ということでリドリー・スコットの原点を30秒で斬ろうと思ったのだが、Soshakuはこの映画をみんなに見てもらいたくて、今までのストーリーを端的に一文にするというルールから少し外れてネタバレしないように配慮してみた。


ナポレオン帝政時代の1800年激動のフランスを舞台に、決闘に執着するフェロー中尉(ハーヴェイ・カイテル)と、些細なきっかけで彼と事あるごとに決闘し続けることになるデュベール中尉(キース・キャラダイン)の、時代の流れに翻弄されつつも、その人生の長きにわたる2人の奇妙な関係と決着の物語。


なんか宣伝コピーみたいになったが、要はそういうストーリーだ。

もう少し詳しく説明すると
粗暴でプライドが高く後先を考えずに行動する男に
決闘を強要され、長きにわたって決闘し続けることから奇妙な感情が芽生えてくる。
互いを過剰に意識し合って決闘の運命に酔う時期もあったり、相手の命を助ける場面もあったりする。
しかしその後結婚し、妻が子供を宿すことで人生の大切なものを知り、最後は家族のためにストーカーと化しているフェローとの長きに渡る闘いにケリをつける、というストーリーだ。

 

物語としてはデュベール視点を中心に描いており、フェローについてはまったくの説明不足なところが不満と言えば不満で、全ての悪行の要因はちっぽけなプライドと男っぷりという、身もふたもない話なのだが、それを補って余りある映像美と当時の風俗、文化がとても興味深い。
例えば主人公が周りのセッティングによる気乗りしない結婚に対して

結婚に至る過程はどうでもいい
要は時と共に根を下ろせばいいの
コケのようにね

 

と姉に諭されるシーンや、その後徐々に平和で幸せな人生を実感していく様など、現代にも通じる普遍的な人の心や社会といったものも描かれる。

 f:id:soshaku:20170929095411j:image

リドリー・スコットは間違いなく現代の巨匠


物語の舞台となるロケ地は、よくこんな景色を見つけたものだというぐらいの美しい風景で、なおかつ自然光を基調にした照明も素晴らしい。

f:id:soshaku:20170929095440j:image

f:id:soshaku:20170929095454j:image

 

リドリー・スコットは当時公開されていたキューブリックの「バリーリンドン」に強く影響を受けたと語っている。
バリーリンドンでスタンリーキューブリックは特別なレンズをNASAから仕入れ、ろうそくの火で映画を撮った。で、リドリーもそれを狙ったのだが予算不足で撮れなかったとか。

 

キューブリックリドリー・スコット、絵画を原点とした画作りがふたりの共通でありながら、リドリーは芸術とビジネスのバランスが絶妙で、それが職人監督と揶揄されながらも、だからこそエイリアンやブレードランナーといった傑作を世に送り出すことができたのであろう。これら作品はキューブリックでは絶対できなかったはずだ。

彼は予算のバランスを見つつ、しっかり感動的なストーリーや芸術のこだわりを作品に反映でき、大スターも扱えて、アクションやSF大作から文芸物までしっかり作り上げるその器用さゆえか、ハリウッドからは便利に使われてしまっている感もあるが、現代の数少ない巨匠である事は間違いない。もっと評価されても良いのではないか。いやされるべきである。

 

そんなリドリースコットの原点が詰まったこの映画、「エイリアン:コヴェナント」の公開を期にひとりでも多くの人に是非観て欲しい作品だ。

 

今日の試験に出るストーリーテリング

「単純なストーリーに魂を宿すのは、細部へのこだわりと、運を取り込んでいく積極性が必要なのだ」

 

デュエリスト-決闘者- スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

デュエリスト-決闘者- スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

 

 

デュエリスト-決闘者- [DVD]

デュエリスト-決闘者- [DVD]

 

 

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)